<Header>
<Author: 白居易>
<Title: 琵琶引>
<Format: 七言古詩>
<Year: 1964>
<BookName: 漢詩大系  白樂天>
<Translator: 田中克己>
<style: 現代文無假名>
<style2: 日本現代譯文無假名標注>
<TranslatedTitle: 琵琶引ならびに序>
<BookPage: 251>
<UsedPage: 1>
<Feature: 1, 4>
<End Header>
<Poem>
潯陽江頭夜送客，
楓葉荻花秋索索。
主人下馬客在船，
舉酒欲飲無管弦。
醉不成歡慘將別，
別時茫茫江浸月。
忽聞水上琵琶聲，
主人忘歸客不發。
尋聲暗問彈者誰，
琵琶聲停欲語遲。
移船相近邀相見，
添酒迴燈重開宴。
千呼萬喚始出來，
猶抱琵琶半遮面。
轉軸撥弦三兩聲，
未成曲調先有情。
弦弦掩抑聲聲思，
似訴平生不得意。
低眉信手續續彈，
說盡心中無限事。
輕攏慢撚抹復挑，
初爲霓裳後六幺。
大弦嘈嘈如急雨，
小弦切切如私語。
嘈嘈切切錯雜彈，
大珠小珠落玉盤。
間關鶯語花底滑，
幽咽泉流水下灘。
水泉冷澀弦疑絕，
疑絕不通聲暫歇。
別有幽愁暗恨生，
此時無聲勝有聲。
銀缾乍破水漿迸，
鐵騎突出刀槍鳴。
曲終收撥當心畫，
四弦一聲如裂帛。
東舟西舫悄無言，
唯見江心秋月白。
沈吟放撥插弦中，
整頓衣裳起斂容。
自言本是京城女，
家在蝦蟇陵下住。
十三學得琵琶成，
名蜀教坊第一部。
曲罷曾教善才伏，
妝成每被秋娘妬。
五陵年少爭纏頭，
一曲紅綃不知數。

鈿頭雲箆擊節碎，
血色羅帬飜酒汙。
今年歡笑復明年，
秋月春風等閑度。
弟走從軍阿姨死，
暮去朝來顏色故。
門前冷落鞍馬稀，
老大嫁作商人婦。
商人重利輕別離，
前月浮梁買茶去。
去來江口守空船，
繞船月明江水寒。
夜深忽夢少年事，
夢啼妝淚紅闌干。
我聞琵琶已歎息，
又聞此語重唧唧。
同是天涯淪落人，
相逢何必曾相識。
我從去年辭帝京，
謫居臥病潯陽城。
潯陽小處無音樂，
終歲不聞絲竹聲。
住近湓江地低濕，
黃蘆苦竹繞宅生。
其間旦暮聞何物，
杜鵑啼血猨哀鳴。
春江花朝秋月夜，
往往取酒還獨傾。
豈無山歌與村笛，
嘔啞嘲哳難爲聽。
今夜聞君琵琶語，
如聽仙樂耳暫明。
莫辭更坐彈一曲，
爲君飜作琵琶行。
感我此言良久立，
却坐促弦弦轉急。
淒淒不似向前聲，
滿座重聞皆掩泣。
座中泣下誰最多，
江州司馬青衫濕。
<End Poem>
<Translation>
潯陽の江のほとりで夜に旅人を見送った。 楓の葉は紅くオギの花は白く秋の気はさびしげだった。 主人のわたしは馬から下り客である旅人は船中にいる。 別れの杯をあげて飲もうとしたが音楽がない。 酔ってもこれではおもしろくなく気も沈んだまま今にも別れようとした。 このときはてしらぬ大川には月影がうかんでいた。 ふと水上から琵琶の音がきこえた。 主人は帰るのを忘れ旅人も出発を中止した。 声をたよりに暗やみに「弾くものは誰か」とたずねると 琵琶の音はやんでなかなかいおうとしない。 船を動かしてその船の近くへゆきその女を呼びいれ 酒をまた追加し、灯の向きをかえ、もいちど宴会をはじめた。 この女ときたらなん度も呼んでやっと出て来たのだが やはり琵琶を抱いて顔を半分かくしている。 軸を巻いて総をしめ、ばちで絃をはらって二声三声と調子をあわせると まだ曲にはなってないが、もう気持ちが出ている。 演奏がはじまると四つの絃をおさえていろいろな音を出し まるでふだん気持ちのかよわないのを訴えるようだ。 彼女はかおをふせて手にまかせてつづけざまに弾奏し 心の中のかぎりしれぬ思いをすべて説きつくした。 軽く紋をおさえ、ゆるくひねり、音を消したりかき立てたり はじめの曲は霓裳の曲、つぎは緑腰の曲。 ふとい絃はさわがしく夕立のようで、 細い舷はちいさい音を立ててささやきのようだった。 太い音と細い音といりまじって弾奏されると ちょうど大つぶ小つぶの真珠が硬玉の皿のうえに落ちるよう。 いいこえのウグイスがなめらかに花のなかで鳴き また泉がむせびなくように早瀬をくだるかとも思われる。 泉の水が冷たかったりせかれるときのように、絃もこおったかきれたかと しばらく音のまったくたえるときがある。 すると別に幽愁と暗恨とが生じて こんなときは音のしないほうがするよりもまさっている。 たちまち鳴り出すと銀の瓶がわれて水漿がふき出るかのよう またはよろいかぶとの騎馬武者がとび出して刀や鎗の音がするかのようだ。 一曲おわって撥をひき胸にあてて一の字をかくと 四本の絃が同時にきぬを裂くような音をたてる。 東にいた船も西にいた船もひっそりとして声たてず 大川のまんなかに秋の月が見えるだけだ。 彼女はもの思いに沈んで撥を織のあいだにはさみ 衣裳をかいつくろっていずまいを正した。 身の上話をしていうには「わたしはもと長安のうまれで 家は蝦蟇陵のあたりにごさいました。 十三のとき琵琶のけいこをしおえ 教坊の第一部に登録されました。 曲をかなでおわってお師匠さまを感服させたこともありますし お化粧したあとはいつも杜秋娘さんにねたまれました。 五陵の若さまがたは競争で花代をくださるので 一曲の演奏ごとにもらった紅い絹はかずしれぬほどでした。 螺鈿した銀のこうがいなど拍子をとるのにたたいて砕きましたし まっかな薄絹のスカートは酒をひっくりかえしてしみがつく。 今年はおもしろおかしくすごしまた来年もと 秋のお月さまや春風はうかうかとすごしました。 弟は軍隊にはいりますし叔母は死にました。 日をすごすうちに自分の顔もふけました。 かどロはさびしくなり馬で来る人もまれになり 年よって嫁いりして商人の妻になりました。 商人といえば金もうけが大切で別れてくらすのなぞなんでもなく 先月からは浮梁へ茶を買いにいっております。 わたしは大川をゆききしてひとり船の番をしています。 その船のまわりは明るいお月さまと寒い川の水。 夜ふけには若い時のことをふと夢にみて 夢のなかで泣くので化粧もくずれて血の涙がいっぱいです」 わたしは琵琶をきいたときにすでに歎息したが この話をきくと二倍に悲しくなった。 おまえもわたしも同じく世界のはてにおちぶれた人間で こうして逢ってみるとまえからのしりあいでなくっても同じこと。 わたしは去年、長安の都にわかれてから 潯陽のまちにながされて来て病気をしている。 この潯陽は片いなかで音楽とてもなく 一年じゅう絃楽や管楽をきくことがない。 すまいは溢江の近くで土地は低くしめっぽく 黄色いあしと苦竹とが家のまわりにはえている。 そこで朝夕になにを聞くかといえば 血を吐くホトトギスのこえとかなしい猿のなきごえだ。 春の川べの花の朝や秋の明月の夜には 時には酒をとりよせてひとりで飲むことがある。 杣の歌や村びとの笛がないではないが 舌たらずやかん高くて耳をかたむけるわけにはゆかない。 今夜はきみの琵琶の音をきいて 仙人の音楽をきいたようで耳がひとときすんだ。 ことわらないでおくれよ、坐りなおしてもう一曲弾いておくれ。 そうすれば君の音楽を琵琶の歌というのに作りなおすよ。 わたしのこのことばに感激してながいあいだ立ちどまっていたが 坐りなおして紋をかき鳴らすとこんどは急な曲だった。 すずしく澄んだ調子の曲でまえのとはちがっていたので 一座のものはみなこれを聞くと涙が流れてそれを手でかくす。 なかで一番おおく涙を流したのは誰だったろう。 江州の司馬であるわたしがそれで青い官服がぬれてしまった。
<End Translation>
<Formatted Translation>
潯陽の江のほとりで夜に旅人を見送った。
楓の葉は紅くオギの花は白く秋の気はさびしげだった。 
主人のわたしは馬から下り客である旅人は船中にいる。 
別れの杯をあげて飲もうとしたが音楽がない。 
酔ってもこれではおもしろくなく気も沈んだまま今にも別れようとした。 
このときはてしらぬ大川には月影がうかんでいた。 
ふと水上から琵琶の音がきこえた。 
主人は帰るのを忘れ旅人も出発を中止した。 
声をたよりに暗やみに「弾くものは誰か」とたずねると 
琵琶の音はやんでなかなかいおうとしない。 
船を動かしてその船の近くへゆきその女を呼びいれ 
酒をまた追加し、灯の向きをかえ、もいちど宴会をはじめた。 
この女ときたらなん度も呼んでやっと出て来たのだが 
やはり琵琶を抱いて顔を半分かくしている。 
軸を巻いて総をしめ、ばちで絃をはらって二声三声と調子をあわせると 
まだ曲にはなってないが、もう気持ちが出ている。 
演奏がはじまると四つの絃をおさえていろいろな音を出し 
まるでふだん気持ちのかよわないのを訴えるようだ。 
彼女はかおをふせて手にまかせてつづけざまに弾奏し 
心の中のかぎりしれぬ思いをすべて説きつくした。 
軽く紋をおさえ、ゆるくひねり、音を消したりかき立てたり 
はじめの曲は霓裳の曲、つぎは緑腰の曲。 
ふとい絃はさわがしく夕立のようで、 
細い舷はちいさい音を立ててささやきのようだった。 
太い音と細い音といりまじって弾奏されると 
ちょうど大つぶ小つぶの真珠が硬玉の皿のうえに落ちるよう。 
いいこえのウグイスがなめらかに花のなかで鳴き 
また泉がむせびなくように早瀬をくだるかとも思われる。 
泉の水が冷たかったりせかれるときのように、絃もこおったかきれたかと 
しばらく音のまったくたえるときがある。 
すると別に幽愁と暗恨とが生じて 
こんなときは音のしないほうがするよりもまさっている。 
たちまち鳴り出すと銀の瓶がわれて水漿がふき出るかのよう 
またはよろいかぶとの騎馬武者がとび出して刀や鎗の音がするかのようだ。 
一曲おわって撥をひき胸にあてて一の字をかくと 
四本の絃が同時にきぬを裂くような音をたてる。 
東にいた船も西にいた船もひっそりとして声たてず 
大川のまんなかに秋の月が見えるだけだ。 
彼女はもの思いに沈んで撥を織のあいだにはさみ 
衣裳をかいつくろっていずまいを正した。 
身の上話をしていうには「わたしはもと長安のうまれで 
家は蝦蟇陵のあたりにごさいました。 
十三のとき琵琶のけいこをしおえ 
教坊の第一部に登録されました。 
曲をかなでおわってお師匠さまを感服させたこともありますし 
お化粧したあとはいつも杜秋娘さんにねたまれました。 
五陵の若さまがたは競争で花代をくださるので 
一曲の演奏ごとにもらった紅い絹はかずしれぬほどでした。 
螺鈿した銀のこうがいなど拍子をとるのにたたいて砕きましたし 
まっかな薄絹のスカートは酒をひっくりかえしてしみがつく。 
今年はおもしろおかしくすごしまた来年もと 
秋のお月さまや春風はうかうかとすごしました。 
弟は軍隊にはいりますし叔母は死にました。 
日をすごすうちに自分の顔もふけました。 
かどロはさびしくなり馬で来る人もまれになり 
年よって嫁いりして商人の妻になりました。 
商人といえば金もうけが大切で別れてくらすのなぞなんでもなく 先月からは浮梁へ茶を買いにいっております。 
わたしは大川をゆききしてひとり船の番をしています。 
その船のまわりは明るいお月さまと寒い川の水。 
夜ふけには若い時のことをふと夢にみて 
夢のなかで泣くので化粧もくずれて血の涙がいっぱいです」 
わたしは琵琶をきいたときにすでに歎息したが 
この話をきくと二倍に悲しくなった。 
おまえもわたしも同じく世界のはてにおちぶれた人間で 
こうして逢ってみるとまえからのしりあいでなくっても同じこと。
わたしは去年、長安の都にわかれてから 
潯陽のまちにながされて来て病気をしている。 
この潯陽は片いなかで音楽とてもなく 
一年じゅう絃楽や管楽をきくことがない。 
すまいは溢江の近くで土地は低くしめっぽく 
黄色いあしと苦竹とが家のまわりにはえている。 
そこで朝夕になにを聞くかといえば 
血を吐くホトトギスのこえとかなしい猿のなきごえだ。 
春の川べの花の朝や秋の明月の夜には 
時には酒をとりよせてひとりで飲むことがある。 
杣の歌や村びとの笛がないではないが 
舌たらずやかん高くて耳をかたむけるわけにはゆかない。 
今夜はきみの琵琶の音をきいて 
仙人の音楽をきいたようで耳がひとときすんだ。 
ことわらないでおくれよ、坐りなおしてもう一曲弾いておくれ。 そうすれば君の音楽を琵琶の歌というのに作りなおすよ。 
わたしのこのことばに感激してながいあいだ立ちどまっていたが 坐りなおして紋をかき鳴らすとこんどは急な曲だった。 
すずしく澄んだ調子の曲でまえのとはちがっていたので 
一座のものはみなこれを聞くと涙が流れてそれを手でかくす。 
なかで一番おおく涙を流したのは誰だったろう。 
江州の司馬であるわたしがそれで青い官服がぬれてしまった。
<End Formatted Translation>